ひんやりする話

こんにちは。篠田のブログです。

しばらくご無沙汰しておりました。先月の西日本豪雨では、たくさんの尊い命が失われ、なお多くの被災者が不自由な生活を強いられています。亡くなられた方々のご冥福と、被災者の皆様が一日も早く元の生活を取り戻せますよう心よりお祈り申し上げます。

水害との戦いは私の家のルーツでもあります。母方の先祖は新潟県の弥彦村なのですが、江戸期はよく河川の増水に苦しめられたようで、災害時には農民は悲泣呻吟、貧乏のどん底に追いやられたようです。名主だった先祖は、江戸末期、家財を傾けて三代にわたって治水工事を行ったようです。水の勢いをもって水を制す、極めてユニークな構造だったとのことです。結局成功したのですが全財産を使い果たし、流れ流れて、その末裔の一人が熱のブログを書いていると…

治水に関わる逸話は、枚挙に暇がありません。涙をさそうのは、薩摩藩による宝暦治水工事です。幕府の命で木曽三川の治水工事を行ったのですが、33名が病死、巨額の借金を負うことになり、51人が切腹することになったとか。

水引いて、この猛暑ですが、最近英国から帰国した知人の話ではあちらはもっとすごいことになっているとか。芝生総枯れだそうです。

7月に会議でドイツに行って参りましたが、そのときは寧ろ肌寒いくらいで、そうでもありませんでした。ホテルでも、あまりエアコンのついているところは少ないのです。それに加えて、厚い石造りの壁が多いので、熱容量が大きく、なかなか冷めづらい。夜間に昼間の熱が部屋に伝わってくるようです。もう一つ、欧州は概して湿度が低いので、太陽からの輻射が水蒸気で吸収されず、直に肌にくるそうです。沖縄の方が京都に来て暑さで入院したそうですが、京都の方もロンドンにいったら、同じ目に合うかもしれません。京町屋は風を通して涼をとる工夫はされていますが、あちらにはそんな考えはないですからね。

この暑さですから、少し涼しくなる話をしたいと思います。私は、年に2回ほど東京都産業技術研究所(TIRI)様で、フラッシュ法による熱拡散率測定の講義をさせて頂いております。もう大分回数をかさねて、古典落語の世界に入ってきたのですが、最初にお話しするのは、熱拡散率、熱伝導率、熱浸透率の話です。質問です。同じ形の金の棒と銅の棒をもって、片方をお湯につけたとき、どちらが先に早く熱く感じるでしょう?またどちらが多く熱を伝えるでしょう?正解は、先に熱くなるのは熱拡散率の高い金、熱をより多く伝えるのは熱伝導率の高い銅の方です。

では、大理石の床をはだしで歩いてひんやり感じ、じゅうたんでは温かく感じるのは何故でしょう?ある参考書に、冷蔵庫から取り出した金属容器とプラスチック容器に触ると、どちらも同じ温度のはずであるが、金属容器の方が冷たく感じる。従って、温度に関する人間の感覚は当てにならない、と書いてありました。解りやすい良書なのですが、これは間違い。金属容器の方が、指と容器の界面の温度が、プラスチックの場合に比べて実際に低いのです。これを与えるのが熱浸透率、という余り聞きなれない熱特性値です。ひとことで言うと、熱を吸い取る能力です。例えば、手で(37℃)で素材(20℃)を触った場合を考えます。発泡スチロールは温かく感じますが、銅は冷たく感じます。人肌の熱浸透率は約1,116[JK-1m-2s-0.5]で、発泡スチロールは44、銅は37,511です。発泡スチロールの熱を吸い取る能力は、人肌に対して小さいので、界面の温度は約36.4℃ですが、銅では20.5℃となります。実際に、触った瞬間は、金属の容器の方が、プラスチックの容器よりも冷たいのです。

実際のところ、定常法で高熱伝導率の材料を測定した場合、測定が困難になるのは、材料と熱板との熱浸透率もあると考えています。定常法では、熱板に熱電対を組み込んで、表面の温度を計測してΔTを求めているのですが、実際の試料表面の温度が熱板の直下で変わっていると正しく測定できません。弊社では、定常法は断熱材にしか進めないので無難ですが、高熱伝導率材料を定常法で測定する場合、かなり気を付けた方が良いと思います。日本国外では、ほぼフラッシュ法を使っています。

さて、ひんやりする話ですが、熱を広げる、ということも重要です。身近なところにあったのは竹シーツなのですが、最初は気持ち良かったのですがすぐに暑くなりました。よく見ると、竹の小片が糸で連ねてあって、熱がすぐにこもってしまうのです。これは設計ミスだな~。本当ならば、よこに長く連ねて、寝ていないところまで熱が拡散するようにしなければいけません。ここで重要なのは面内の熱拡散率です。フラッシュ法は、グラファイトシートのような非常に面内の熱拡散率の高いものの測定にはIn-plane ホルダーを使用して精度の高い測定が可能なのですが、樹脂のような低いものは苦手でした。ここ1年ほど、産総研名誉リサーチャーの馬場先生のご指導で、全く別のかなり良い方法が見つかって、昨年のJSTPでもご発表頂いたのですが、現在改良を重ねております。面内の異方性も見られるので、より便利かと思います。十年以上出版された参考書に、油団の熱伝導率測定というのがあって、その中に弊社のNanoflash(フラッシュ法)の測定結果が非人間的測定と紹介されており、人間的な測定法(サーモグラフ)と比べられておりました。ここで、人間的、非人間的というのは著者の表現で、非人間的な測定方法は油団の性能を反映していない趣旨のようです。どこで測定されたのかは解りませんが、面内の測定(人間的?(笑))も勧めて欲しかったと思いました。

こう書いているさなか、台風が接近して来て涼しく感じられるようになってきました。極力災いをもたらさずに、猛暑列島に水撒きをして去って欲しいものです。

 

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